トップへ戻る

鹿の目


突然「ピュウッ」と鳴き声が聞こえてくる。山でよく出くわす鹿の鳴き声に視線を移した時、大抵そこにはなにもいない。けれど気づかないうちに林を隔ててすぐそばにいたりもして、向こうもこちらに気がつくとささっと逃げていく。
夜に出会った時のこと。ヘッドライトを頼りに山頂へ向かっていた時見つけたのは、朝露のようにキラッと光るなにか。なんだろうと見つめると、そこには光を反射した鹿の両目があった。かなりの数がいたのだと思う。暗闇のなか動物の目だけが浮かぶ光景は恐ろしい。恐る恐るその場を離れる。ふっと息をつく。こうした出来事は、山の記憶に残る。

Photography: 荻野智生